2021年よかったものを振り返っていくコーナーです。
■よかったYouTube
サジェストをきれいなままにしておきたくて、ふだん見ないタイプの動画はシークレットモードで見るようにしている男・西沢です。といっても音楽とお笑いとNFLくらいしかサジェストされませんが……
今年YouTubeでよかったのはなんといってもSQUALAYさんです。いろんな曲を自分の声だけで再現する"but its just my voice"シリーズに心を奪われました。
そんなの聴いてないで原曲を聴けばいいじゃないの、と厳しいご意見もあるかもしれませんが、"but its just my voice"でしか達しえない独特の高みにあるような気がしています。最初は笑って聴いていたのですが、Tyler, the Creatorの"IGOR"をアルバム丸ごと再現している(半年かかったようです)のを聴いてふつうに感動しました。なんだろうな、方向性としては、あのなんでしたっけPentatonixとか、そういう技巧派系ではなくて、どちらかというと小学生のいう「デュクシ」とか「ドゥンドゥン」の延長線上にある感じなのです。インターネットミーム的な粗さのなかに、人力ならではのエモーションが訪れる瞬間がよいです。
"RUNAWAY"や"BOUND 2"など、カニエさんの曲シリーズもグッとくるものあり。ちなみにこの"but its just my voice"系の動画はYouTubeには多く上がっているようで、僕が聴いたなかだと、"OK Computer"を再現している動画も、単純にめちゃくちゃクオリティが高くてよかったです。
Tyler, the Creatorが作ってアップしていた"THE REALLLLY COOOOL CONVERSE CLUB"という動画もかなり好きでした。
自身のブランドでコンバースとのコラボを展開してきたタイラーが満を持して出したコンバース大好きクールクラブのコメディ。「コンバース以外を履いてはならない」という掟に反した古参メンバーが断罪される様子を描いたこの動画は、僕自身が書いていきたい短編のひとつの理想形といっても過言ではありませんでした。タイラーはこの動画だけでなくアルバム"CALL ME IF YOU GET LOST"向けのMVもよかった。彼は完全にパステルカラーをものにした感じがありますね。ロラパルーザでのライブ映像もめちゃくちゃよかった。ファンです。
せいやの個人チャンネルも好きで、ときおりのぞいています。ものまねの目の付け所が抜群にいいし、うまい。粗品は怖くてあまり見ていません。そういえば今年はジャルジャルをぜんぜん見られてないな。
その他よかったMV;
- GENER8ION, 070 Shake - Neo Surf
- Lucy Dacus - Hot & Heavy
- Cassandra Jenkins - Hard Drive
- LIL NAS X - INDUSTRY BABY
- KEVIN ABSTRACT - SIERRA NIGHTS FEAT. RYAN BEATTY
- Shygirl ft. Slowthai - BDE
- 長谷川白紙 - わたしをみて(ライブビデオですが)
- MUNA - Silk Chiffon feat. Phoebe Bridgers
- Vince Staples - ARE YOU WITH THAT?
- Billie Eilish - Happier Than Ever
- Doja Cat - Kiss Me More ft. SZA
■よかった音楽
2021年よかったアルバム;
- Clairo - Sling(当代最高のシンガーソングライターのひとり。前作のよきUSインディー感から今作でマジのソフトロックにまで振れて、それでもまぎれもなくClairoだと感じさせるのがすごい。憂いを帯びた声がやっぱり唯一無二です。二転する"Harbor"が好きです)
- Tyler, the Creator - CALL ME IF YOU GET LOST(よい集大成感)
- 折坂悠太 - 心理(ライブ行きたかったね)
- Lucy Dacus - Home Video(どこか後期シャムキャッツ感もあり)
- Cassandra Jenkins - An Overview on Phenomenal Nature
- Kacy Hill - Simple, Sweet, and Smiling(かなりよいポップ)
- Joy Orbison - still slipping vol.1(ひんやり)
- Men I Trust - Untourable Album(曇り空)
- Tirzah - Colourgrade
- Little Simz - Sometimes I Might Be Introvert
- Vegyn - Like A Good Old Friend - EP(だいぶよい)
- Billie Eilish - Happier Than Ever(1stより好きです)
- Pink Siifu - Gumbo'!
- John Carroll Kirby - Septet
- 石橋英子 - Drive My Car Original Soundtrack(映画のよさで補正かと思いきや単体でよいアルバム)
- Nite Jewel - No Sun
- Amine - TWOPOINTFIVE
- Adele - 30(年齢をアルバムタイトルにするのかっこいい)
- Rostam Batmanglij - Changephobia("MVOTC"期のVampire Weekendも彷彿とさせ最高)
- Faye Webster - I Know I'm Funny haha
- Indigo De Souza - Any Shape You Take(みんな大好きなインディー感)
- Low - Hey What(吹き荒ぶ嵐)
- boylife - gelato
- slowthai - TYRON
- Sam Gendel - Fresh Bread(神出鬼没すぎる。このアルバムは2周くらいしかしていませんが)
- Doja Cat - Planet Her(チャキチャキ系ラップとスイートなボーカルが同居している器用さがいい)
- Matt Maltese - Good Morning It's Now Tomorrow(いいブリットポップ感)
- Drake - Certified Lover Boy(ちょいちょい出てくる甘い声の持ち主こそがDrakeだとやっと認識しました)
- James Blake - Friends That Break Your Heart
- Arlo Parks - Collapsed in Sunbeams
- Trippie Redd - Trip At Knight(たまに聴きたい)
- KIRINJI - crepuscular
- Alice Phoebe Lou - Glow
- Park Hye Jin - Before I Die
- black midi - Cavalcade(ポストパンク系も何枚か聴いたけどこれが好きでした。King Crimson感がありいい)
- Kanye West - Donda(曲単位ではよく聴いていたけどアルバムでは……)
- Black Country, New Road - For the First Time
どういうわけか、けっきょく女性シンガーソングライターの作品を好きになりがちでした。去年もPhoebe Bridgersだったし……。どういうわけなんだ?
■よかった小説
読んだ順に、北野勇作『100文字SF』*、リチャード・パワーズ『われらが歌う時』*、滝口悠生『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』、大前粟生『おもろい以外いらんねん』、乗代雄介『旅する練習』*『最高の任務』、ショーン・タン『内なる町から来た話』、ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』*、山下澄人『月の客』、ミシェル・ウエルベック『地図と領土』*、リディア・デイヴィス『ほとんど記憶のない女』、滝口悠生『高架線』*、遠野遥『破局』、乗代雄介『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』*、アーサー・C・クラーク『幼年期の終り』*、コーマック・マッカーシー『ザ・ロード』、松田青子『女が死ぬ』、アーシュラ・K・ル・グィン『闇の左手』*、コルソン・ホワイトヘッド『ニッケル・ボーイズ』、乗代雄介『皆のあらばしり』がよかったです。「*」をつけたものは特に好きでした。
去年からの継続的テーマである積ん読消化ができたかというとそうでもありません。小説を一冊読むごとに、読みたい本が少なくとも二冊増える。読書というのはそういうものであり、そうである以上、積ん読が減る、という事態は本質的にありえません。今年は図書館をけっこう活用したのですが、それにも功罪があると思っています。図書館を活用しはじめると、図書館に置いてある本も実質自分の家の本棚に置いてあるのと同じだと認識してしまうため、積ん読がさらに増えました。もっというと、本屋に置いてある本も、いずれ買うのならば、けっきょく家の本棚にあるのとほぼ同じなんですよね。遅かれ早かれ、というだけの話であって。このように、積ん読は空間的にも時間的にも拡張しました。
今年は乗代雄介という作家に出会ったのが大きかったです。『旅する練習』、『最高の任務』を続けざまに読み、ブログ「ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ」とそこから抜粋した同名の単行本を読み、そのユーモアと、書くという営みへの信念のようなものにやられました。
「ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ」、ほんとうにおもしろいので皆さんもぜひ読んでみてください。単行本の表紙を描いているポテチ光秀的なノリというか、インターネットだ、という感触がありよいです。僕ももっとインターネットを通ってくればよかった。インターネット、皆さんはどこで通ってきたんですか。
あとはルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』がよかったな。文章がめちゃくちゃかっこいい。生々しくて埃っぽいところも叙情的なところも、上っ面じゃない、真に実感を伴った文章だというのが伝わってきました。あと、話の導入? 枕? が心地よくて、一見関係ないところからいつの間にか本編が始まってる感じや、終わりかたもかっこいいのが多かった。小説うんぬん以前に、単純に話(トーク)がめちゃくちゃ上手なひとだったのだろうな、と思いました。
■よかった漫画
読んだ順に、熊倉献『ブランクスペース』*、森つぶみ『転がる姉弟』*、藤岡拓太郎『大丈夫マン 藤岡拓太郎作品集』*、スケラッコ『大きい犬』、岡崎京子『pink』、町田メロメ『三拍子の娘』、斎藤潤一郎『死都調布』、和山やま『女の園の星』*、宮崎夏次系『僕は問題ありません』*『ホーリータウン』、大山海『奈良へ』*、大橋裕之『太郎は水になりたかった』*、にくまん子『いつも憂き世にこめのめし』、INA『つつがない生活』*、川勝徳重『アントロポセンの犬泥棒』がよかったです。「*」をつけたものは特に好きでした。この量だとめっちゃ「*」ついちゃうな。
去年も書いていましたが、けっきょく今年も『A子さんの恋人』を積ん読にしたまま終わってしまいそうです。本棚のすぐに取り出せる位置に置いてあるというのに……。どうやら僕は続きものというか、巻数の多いものが苦手のようです。リアルタイムで追えているものならまだしも、あとから30巻とか40巻とか追うのはきつい。そんなに続いているのならぜったいおもしろいのに……
■よかった映画
2021年に観たよかった映画;
- 『オールド・ジョイ』(旧作)(Yo La Tengoが劇伴だというのもありますが、USインディーロックの具現化のような映画。昔とは決定的に現在地が違ってしまっていることをわかりながら、やがて静かに温泉に浸かるふたり。車窓を流れる景色が千葉~茨城くらいのフィーリングにも似てて、個人的にそれもよかった。あと犬がめちゃよい。あ、てかこれもドライブ映画ですね。ドライブは単に空間の移動というだけでなく心の移動にもなる)
- 『ドライブ・マイ・カー』(これを観たあとに『きのう何食べた?』のドラマ見て、西島さんが同じすぎてウケました)
- 『DUNE/デューン 砂の惑星』(シャラメがまたオラついた歩き方をしており、よい)
- 『偶然と想像』(濱口作品はユーモアがもっとあればよりいいと思っていたところだったので、だいぶよかったです。濱口作品で劇場に笑いが響くとは思いませんでした。本来交わらないはずの/もう交わらないはずだったひとたちが交感する濱口全開の短編集だったのと、喜劇が悲劇に直結し、それでありながら軽やかに着地するバランスがすごくよかった。ほんとは『ドライブ・マイ・カー』より上かも)
- 『アメリカン・ユートピア』
- 『逃げた女』(よいズームあり)
- 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
- 『エターナルズ』(僕は好きでした。古から地球を守りし者たちの映画なのにコミュニケーションが大学のサークル並みなのがよかった。壮大な設定とオフビートなノリの共存。白人スーパーマン系ヒーローであるイカリスの最後も批評性があり、よい)
- 『サウンド・オブ・メタル』(技術的な方法論と映画の主題が密接に結びついたいい例。コミュニケーションのあり方がとても豊かでした)
- 『リバー・オブ・グラス』(旧作)(どこにでも行けそうでどこにも行けない閉塞感。気だるさ、眩しさ。まさに90年代USインディーの質感)
- 『サマーフィルムにのって』(伊藤万理華、さいこう。ドラマ『お耳に合いましたら。』もかなりよしでした)
- 『ノマドランド』
- 『17歳の瞳に映る世界』
- 『街の上で』(大橋ユーモアがかなりよい)
- 『パリのランデブー』(旧作)
- 『お嬢さん』(旧作)
- 『DAU. ナターシャ』
- 『あのこは貴族』
- 『プロミシング・ヤング・ウーマン』
- 『ラストナイト・イン・ソーホー』
- 『ザ・スーサイド・スクワッド』
- 『子供はわかってあげない』(観返してみなきゃですが『菊次郎の夏』感あり、よかったです。上白石萌歌もさいこう)
今年はなんといっても濱口竜介だったな……、と思いながら並べたらなぜかケリー・ライカート『オールド・ジョイ』がいちばん上に来てしまいました。オフビートなノリ大好き人間なので……
どうしてオフビートなノリが好きなのか考えてみたのですが、はっきりした答えはわかりません。人間どうしのコミュニケーションって本来オフビートなものじゃん、というもっともらしい説明は思いつくのですが、ほんとうか?という気もし……。でも、たぶんそういう面で、僕は「無駄のない脚本」みたいなものは苦手です。『パラサイト』くらいやってくれれば逆にいいけど、でもあれもユーモアありの映画だったですものね。無駄がなく、かつ真面目一徹だと個人的にきついかもしれません。
以上です。