バナナ茶漬けの味

東京でバナナの研究をしています

創作

逆上がりを盛り上げろ!

クラスのみんなが逆上がりを成功させていくなかで、一度もできていないのはとうとうゴロコちゃんと志の輔くんだけ。ゴロコちゃんには逆上がりのメカニズムがどうしても理解できなかった。志の輔くんはシンプルに腹筋がかなり弱かった。しかし生まれながらの…

小指に風

河川敷の空気は澄んでいる感じがする。半分乾いたような草のにおいも、川の流れも、向こうの陸橋を走る電車の乾いた音も胸に迫ってくる。それらをまとめて、苦しくなるほど吸い込むのがジゴロウは好きだった。苦しさのなかにこそときおり生の実感が宿る、と…

ホラーチャーハン(Horror Chahan)

ものごとがもっとも美しい状態にある時間というのは存外短いものだ、という話の流れでナデヒコくんが鼻を鳴らしながら発したのが「百年経ってもパラパラなチャーハンがあったら、怖いだろ」という台詞だったが、ハミスケくんによると、百年経ってもパラパラ…

スタンドバイミー

その夏、わたしたちのあいだで映画『スタンド・バイ・ミー』ごっこが流行した。といってもわたしたちは十二歳ではなく二十七歳だったし、死体を探しに行っていたわけでもない。映画終盤の「あの頃のような友だちはそのあと持ったことがない」みたいなせりふ…

ひげ、上から剃るか? 下から剃るか?

ひげ剃りって、どんな感じでやってます? というのも、ひげを剃るときって、みんなそれぞれ決まった順序があると思うんですね。だってそりゃ、肌に刃物をあてるわけですから、無秩序にはやってられないでしょう。私の場合、あ、私の場合どうするかをお話しし…

ザ・ライズ・アンド・フォール・オブ・ウズシオブルー

東に千葉のラッカセイント、西に福岡の明太番長、北に山形のちぇりちぇりレディがそびえ立つ、かつてないほどの群雄割拠のなかで、わが徳島のウズシオブルーがいかにご当地ヒーロー界の覇者となり、やがて鳴門海峡の泡のごとく消えたか。 「鳴門の渦潮の力を…

フミコちゃんのゲーム2

フミコちゃんがひとの自転車のライトを勝手に点けるゲームにはまってしまって、わたしはひやひやする。コンビニの外、焼肉屋の外、スパゲッティ屋の外、まいばすけっとの外、いろんな店の外に止まっている自転車のライトを、昼も夜も関係なく、フミコちゃん…

フミコちゃんのゲーム

フミコちゃんがスマホのゲームにはまってしまって、わたしはつまらない。ぷにぷにした玉を集めて消すゲームとか、落ちてる銃を拾って撃ち合って殺し合うゲームとか、なんかそういうみんながやってる感じのゲームならまだしも、誰もやってないようなゲームだ…

バナナ・フットボール

恵比寿ビアファイターズ対日暮里イケイケボーイズ、立ち上がりからタッチダウンに続くタッチダウンで名試合の予感! ロングパスにはロングパスで返す! ベテランからルーキーまで、全オフェンス躍動! 両者一歩も譲らぬまま、前半終了時点で三十五対三十五!…

伸るか反るか

ノルカソルカ、やぶれかぶれ、はみ出しおパンツ、茄子のトルネード、デニデニデニム、犯人はGt. & Vo.、ゲーミング戦艦、バイオテニス、灼熱又五郎、じゃあお前がやれよ、ホーリーシッツ、マクソン、ギヴミーキスィーズ、おれにいわせれば、残忍豆腐、ミディ…

日記(梅雨)

210621 一年で一番日が長い日の夕焼け空を見ながら、ふいに、これからどんどん日が短くなっていくということが悲しくなる。明日は今日より日が短いし、明後日にはさらに短くなる。夏はまだまだこれからだというのに、日は日に日に短くなっていく。僕たちは夏…

ジゴロウと雨

ジゴロウは雨が怖い。学校の行き帰りや、授業を受けてるときの雨は楽しいのだけれど、家にいるときの雨はとにかく怖い。なぜかというと、ジゴロウの家は雨の音がものすごく大きく響くからだ。ジゴロウが大人になってから判明したことだが、天井の裏にちょう…

エンジェル

ラジオネーム「全自動犬撫で機」。金のエンゼル銀のエンゼルに当たる方法ですが、湖に木のエンゼルを落とせばいいと思います。そうすると湖から神さまみたいなのが出てきて、お馴染みの「あなたが落としたのはどちら?」のくだりをやってくれるので、正直に…

De Niro

はあ。疲れたね、なんか。 疲れたの? 疲れないよ。何にもしてないじゃん。 そうだな、疲れてないな、言われてみりゃ。 * アンタさあ、どうすんの? 映画。 うーん? どうするって? 今からなんか観に行く? 違うよ、映画どうすんのって。撮るんでしょ、映…

写真について

へえ、俺の若い頃の話を聞きたいの? あ、そうなの、大学で研究してるんだ。うーん、じゃあ、今でもいい? じゃあ今から話しちゃうね。あ、お茶いる? あ、いらない? えっと、そうだなあ、何から話そうか。まずは、そうだなあ、当時の東京に暮らしてた俺ら…

遅刻はよくない、という話

遅刻はよくない、という話をしよう。 『プリーズ・プリーズ・ミー』 1963年春、ビートルズの一作目のアルバム。歌の内容は、だいたい「カノジョがどうしようもなく好きなんだ」や「キミはたまらないよ」なんてこと。ジャケットは、どこかのビルの吹き抜…

みんみん蝉

「絶対UFOが出る」って言いはる友だちと二人でめちゃめちゃはしゃいで遠くまで見に行った夏の日の帰り道

対話1

暑くなってきたねえ、最近。そうだなあ。もう夏なんだねえ。そうだなあ。 おいらもたまには外の空気を吸いたいんだけど、いいかねえ。いやー、よかないよ、なるべく我慢するようにしてくれよ。冗談だよ、おいらだってお前を困らせるようなことはしたくないよ…

壮大なこと

「たとえば今、こうやって2人で電車に揺られているじゃん。僕は右手、君は左手で吊革につかまって立っている。目の前には池田エライザがとっても健康的な格好で写った広告があって、そこからちょっと右に目を移せば、窓の外にはいかにも山手線沿いらしい景…