にしざわの日記

オレの夏…

コーヒーについての問題

僕:このコーヒーうまいなあ。

識者:そうかな? どうもコクがないように思えるけどね。それに、キミね、一口にコーヒーと言っても実にいろいろな種類があるのだよ。そもそもキミは、コップに一杯のコーヒーが作られるまでにどんな過程をたどっているのか知っているか。豆を選んで、焙煎し、その豆をブレンドし、挽いて、そして淹れる。途方もなく奥が深い業なのだよ。過程ごとに幾多もの分岐があり、そのそれぞれをあるいは意識的に、あるいは無意識に選ぶことによって、いまここにこうやって一杯のコーヒーが出来上がってくるのだ。まず、もちろんどんな豆を選ぶかによって変わる。焙煎にかける時間やそのときの熱のかけ方によって風味が全く異なってくるし、焙煎機が鉄製かステンレス製かによってもものすごく違うのだ。それに、たとえば焙煎しているときの周囲の環境も決定的な要素だ。梅雨の時期に焙煎した豆はやはりどうしても感傷的になる。真夏に湘南の海沿いで焙煎した豆からは、かすかに桑田佳祐のしゃがれ声が聞こえてくる。フランク・オーシャンを聞かせた豆はウェットで繊細な質感をまとうことになるし、谷崎潤一郎を読んで聞かせた豆は官能的な陰翳の中に身を落ち着かせることになる。それから、そう、ブレンドの仕方も星の数ほどありえる。キミね、ブレンドと言ったって、ただ豆と豆を組み合わせてシャカシャカすればいいというものでは決してないのだよ。ブレンドという作業は、ひたすら自省を繰り返し、我々自身の内面に深く潜り込んでいくプロセスだ。それは言うなれば宇宙の旅。豆と対峙した時に、我々の内部の最も深い水面に微かに揺らぐ波を…………

僕:うーん、わからないなあ、うまいと思ったんだけど、やっぱりまずいのかなあ……